本文へ移動

2024年バックナンバー

雑記帳

経済財政白書「老後資金ため込みすぎ」

 内閣府が、令和6年8月に公表した経済財政白書(「年次経済財政報告」)は、高齢者が蓄えた老後資金は85歳を過ぎても平均15%程度しか取り崩されていないという現状を報告しました。
 高齢者が抱え込んだお金が投資や消費に回らず、日本経済に有効に使われていないという指摘です。

 経済財政白書によりますと、日本には、現預金・株式など金融資産と住宅・設備など実物資産をあわせたストックが令和4年末で1京2650兆円あります。
 家計部門の純金融資産(資産-負債)は令和4年末で1800兆円です。そして、半分以上は現預金で、保有は高齢者に偏っています。

 内閣府が、総務省の「2019年全国家計構造調査」を元に分析したところ、世帯の金融資産は年齢が高くなるほど増え、リタイア期の60~64歳で平均約1800万円強とピークとなります。
 しかし、65歳以降の取り崩しペースは緩やかで、85歳以上でも平均約1500万円強と300万円弱しか減っていません。

 このため報告書は、高齢者は公的年金や働いて得た所得で大半の消費をまかなっていて、老後資金の取り崩しは非常に限定的としています。

 背景は複合的ですが老後不安が大きいといわれています。
 金融広報中央委員会の令和5年の調査では、60歳以上が金融資産を保有する目的は「老後の生活資金」が77%と最大となっています。
 高齢者の3分の1は「自分で財産を使い切りたい」と考えているのですが、長寿化が進み、長生きリスクが強く意識されているとしています。
 人間いつ死ぬかは神のみぞ知ると言ったところでしょうか。
 ちなみに、ダスキンのコマーシャルで有名になった、金さん銀さんは、100歳になってメディアへの出演などでお金が入りました。「お金を何に使いますか?」という問いに対して、2人揃って「老後の蓄えにします」と答えて話題になりました。

 話を戻して、経済財政白書は、高齢者の資産が有効活用されず、資源配分に非効率性があると問題提起しています。
 日本経済の活性化には、高齢者が、無駄にお金をため込まず、消費や投資に回すことが必要というわけです。
 「無駄にお金をため込む」という表現自体が、高齢者の気持ちがわかっていないということになりますね。人はいつ死ぬか分からないわけですから。

 しかし、これに疑問を持つ人は少なくないでしょう。
 老後資金の問題とは「ため込みすぎ」ではなく「足りない」はずだったからです。
 金融庁の金融審議会が令和元年に公表した報告書が「老後2000万円問題」として大反響を招いたのは記憶に新しいといえます。
 高齢夫婦が貯蓄を月平均約5万円取り崩している現状を挙げ「人生100年時代は約2000万円不足する」という計算を示し、その部分が切取られて批判を浴びましました。

 財政経済白書の指摘は目新しいものではありません。
 家計資産が高齢者に偏り、多くが現預金で占められ、有効活用されていないことは、課題として長年議論されてきました。

 総務省の「家計調査」によりますと、65歳以上世帯(2人以上)の金融資産は令和5年末で平均2462万円です。
 資産ゼロの世帯を除き、資産の低い順に並べて「中央値」は1604万円で、資産が少ない世帯に分布が偏っています。資産4000万円以上の世帯は全体の19%ですが、同400万円以下も19%あります。

 高齢者の資産格差が大きいのは、現役時代の収入差が貯蓄差として積み上がり、退職金や企業年金、資産運用などの差も影響するためです。
 厚生年金額は現役時代の収入に基づくため引退後の年収差を生みます。
 親の相続時期を迎え、親の資産を引き継げばさらに差は開きます。老後裕福な人は、裕福な家庭に育っている人が多いからです。

 つまり、日本全体でみれば高齢者の老後資金は過剰かもしれませんが、保有には偏りがあり、必ずしも個々の高齢者にはあてはまらないということです。
 むしろ近年は、金融資産が少ない世帯の割合が高まり、経済的に困窮する高齢者は増えています。
 過剰なのはもっぱら資産の多い人の話であって、「平均値」で論じてもあまり意味はありません。


TOPへ戻る