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2018年バックナンバー

雑記帳

徴用工裁判

 日本による朝鮮半島統治下で、徴用工として日本の製鉄所で労働を強いられたとし、韓国人4人が新日鉄住金を相手取り損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審について、韓国最高裁は、平成30年10月19日、判決言渡期日を平成30年10月30日と指定しました。

 

 元徴用工らによる同様の訴訟は韓国で他にも14件が進行中で、大法院で確定判決が出れば、他の訴訟にも影響するとみられます。

 

 訴訟は、昭和16年から昭和19年にかけて、新日鉄の前身であった日本製鉄の製鉄所(釜石市)で労働を強いられたと主張する原告ら4人が、平成17年に提起しました。

 

 第1、第2審では、請求権問題は昭和40年に締結されたの日韓請求権協定で解決済みであるとして、原告敗訴の判決がなされました。

 

 しかし、韓国大法院(最高裁)は、平成24年5月に上告審で「植民地支配の合法性について韓日両国が合意しないまま協定を結んだ状態で、日本の国家権力が関与した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定で解決されたとみるのは難しい」とし、「個人請求権は消滅していない」と判断し、高裁判決を破棄し、差戻しました。

 

 ソウル高裁は、平成25年7月の差戻し審で、新日鉄住金に計4億ウォン(約4000万円)の賠償を命じる原告勝訴の判決を言渡しました。

 

 新日鉄住金は「請求権は消滅した」とする日本政府の見解に基づき上告しましたが、韓国大法院は5年以上、確定判決を出さないままでしたが、平成30年8月末に上告審の審理を始めました。

 

 今回の再上告審では「個人の請求権」について韓国の司法が最終的に認めるかどうかが焦点となります。

 

 日本での請求訴訟が認められないから、韓国の裁判所に訴訟を提起したということになります。
 日本の最高裁判所の判例は後述します。

 

 韓国の裁判所は、たとえ大法院や憲法裁判所でも「法治裁判」ならぬ「情治裁判」をするといわれています。

 

 平成24年5月の大法院判決の「植民地支配の合法性について韓日両国が合意しないまま協定を結んだ状態で、日本の国家権力が関与した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定で解決されたとみるのは難しい」から「個人請求権は消滅していない」という意味は正直わかりません。

 

 日韓併合条約について日本側の主張は「併合は合法、有効」であり、その点は一貫して変わっていません。他方、韓国側は「源泉的無効」、つまり締結当初からの無効・不成立を主張してきました。
 日韓基本条約では「すべての条約及び協定は、もはや無効(already null and void)であることが確認される」と、いつから無効なのかを示さないまま妥結しています。

 

 ただ、日韓併合条約についての有効無効が、個人の請求権の有無(厳密にいえば、請求権が法的に保護されるかどうか)について影響を与えるという理由がわかりません。

 

 日韓併合条約についての有効無効が、請求権協定の有効無効を左右する理由はありませんし、請求権協定の有効無効を左右するのであれば、最初から、請求権協定など締結しない方がよかったということになりかねません。

 

 原告の請求が認められ、大法院で確定するとします。

 

 請求権協定第三条には、以下のとおり定められています。
「1 この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。
2 1の規定により解決することができなかつた紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から30日の期間内に各締約国政府が任命する各1人の仲裁委員と、こうして選定された2人の仲裁委員が当該期間の後の30日の期間内に合意する第三の仲裁委員又は当該期間内にその2人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員との3人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のため付託するものとする。ただし、第三の仲裁委員は、両締約国のうちいずれかの国民であつてはならない。
3 いずれか一方の締約国の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかつたとき、又は第三の仲裁委員若しくは第三国について当該期間内に合意されなかつたときは、仲裁委員会は、両締約国政府のそれぞれが30日の期間内に選定する国の政府が指名する各1人の仲裁委員とそれらの政府が協議により決定する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員をもつて構成されるものとする。
4 両締約国政府は、この条の規定に基づく仲裁委員会の決定に服するものとする」

 

 日本政府は、まず、日韓請求権協定に記載されて紛争解決手続きに基づいて、韓国政府と協議します。

 

 協議は成立するはずはありませんから、第三国の委員が含まれている仲裁委員会で議論することを申請することになりますが、韓国側は、どう考えても不利なので、仲裁委員の選任も拒否するでしょう。

 

 日本政府は、この問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する方針です。

 

 そんな悠長なことをしている前に、日本企業の韓国内の資産の差押さえ手続きがなされる可能性があります。

 

 日本政府は、和解は拒絶するように、任意の支払いはしないようにと、関係企業を指導しています。

 

 韓国政府は国内の強制徴用被害者が220万人いるとしており、同様の訴訟が続発する可能性も否定できません。

 

 日本企業が韓国でのビジネスをリスクとみなし、両国の経済関係が冷え込むのは間違いありません。

 

 日本企業は「コリアリスク」を考えて、韓国における企業活動から撤退しはじめるでしょうし、韓国内の財産を日本に戻し始めるでしょう。新規に事業開始するなどとんでもない話です。

 

 日本は困りません。資金も技術も入ってこなくなって困るのは韓国です。

 

 日本は「助けない。教えない。関わらない」という古田博司筑波大学大学院教授が提唱する「非韓三原則」が適用されることになるでしょう。
 福沢諭吉の「脱亜入欧」の現代版ですね。


 日本での立法と裁判所判例について、補足しておきます。

 

 昭和40年6月22日「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」が締結されました。
 

 そして、日本においては「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律」(昭和40年12月17日法律第144号)が制定されました。

 

1 次に掲げる大韓民国又はその国民(法人を含む。以下同じ。)の財産権であつて、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定〔昭和40年12月条約第27号〕(以下「協定」という。)第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規定の適用があるものを除き、昭和46年6月22日において消滅したものとする。
 ただし、同日において第三者の権利(同条3の財産、権利及び利益に該当するものを除く。)の目的となつていたものは、その権利の行使に必要な限りにおいて消滅しないものとする。
  一 日本国又はその国民に対する債権
  二 担保権であつて、日本国又はその国民の有する物(証券に化体される権利を含む。次項において同じ。)又は債権を目的とするもの
2 日本国又はその国民が昭和40年6月22日において保管する大韓民国又はその国民の物であつて、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、同日においてその保管者に帰属したものとする。
 この場合において、株券の発行されていない株式については、その発行会社がその株券を保管するものとみなす。
3 大韓民国又はその国民の有する証券に化体される権利であつて、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものについては、前二項の規定の適用があるものを除き、大韓民国又は同条3の規定に該当するその国民は、昭和40年6月22日以後その権利に基づく主張をすることができないこととなつたものとする。
(附則)この法律は、協定の効力発生の日〔昭和40年12月18日〕から施行する。

 

 旧徴用工は、日本政府を相手に損害賠償請求訴訟をしましたが、最高裁判所にて敗訴判決が確定しています。

 

最高裁判所第二小法廷
平成15年(オ)第1895号
平成16年11月29日判決

 

主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする

 

 要旨 

 

 全文 

 

「3 同第1の2のうち、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和40年法律第144号)の憲法17条、29条2項、3項違反をいう部分について
 第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は、本来憲法の予定しないところであり、そのための処理に関して損害が生じたとしても、その損害に対する補償は、戦争損害と同様に憲法の予想しないものというべきであるとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(前掲昭和43年11月27日大法廷判決)。したがって、上記法律が憲法の上記各条項に違反するということはできず、論旨は採用することができない(最高裁平成12年(オ)第1434号平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判集民事203号613頁参照)。」


 なお、日韓請求権協定についての過去のエントリーを引いておきます。

 

日韓請求権協定とは何でしょう。

 

 正式名称は「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」です。

 

 昭和40年6月22日に締結されています。

 

 読みやすくするため、一部、表現を変えています。

 

第一条
1 日本国は、大韓民国に対し、
 (a)現在において1080億円に換算される3億米ドルに等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から10年の期間にわたつて無償で供与するものとする。
 各年における生産物及び役務の供与は、現在において108億円に換算される3000万米ドルに等しい円の額を限度とし、各年における供与がこの額に達しなかつたときは、その残額は、次年以降の供与額に加算されるものとする。ただし、各年の供与の限度額は、両締約国政府の合意により増額されることができる。
 (b)現在において720億円に換算される2億米ドルに等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで、大韓民国政府が要請し、かつ、3の規定に基づいて締結される取極に従つて決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の大韓民国による調達に充てられるものをこの協定の効力発生の日から10年の期間にわたつて行なうものとする。
 この貸付けは、日本国の海外経済協力基金により行なわれるものとし、日本国政府は、同基金がこの貸付けを各年において均等に行ないうるために必要とする資金を確保することができるように、必要な措置を執るものとする。
  前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。
2 両締約国政府は、この条の規定の実施に関する事項について勧告を行なう権限を有する両政府間の協議機関として、両政府の代表者で構成される合同委員会を設置する。
3 両締約国政府は、この条の規定の実施のため、必要な取極を締結するものとする。
第二条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く)に影響を及ぼすものではない。
 (a)一方の締約国の国民で1947年8月15日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
 (b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて1945年8月15日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。

 第二条2項に「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする」と定められています。

 

 

 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定は、第二次世界大戦で、日本と韓国が交戦したわけではなく(韓国は日本の一部でした。つまり韓国も敗戦国となります)、戦勝による賠償金を法的に支払うことはできないので、無償で3億ドル、有償で2億ドルの借款を供与し(1ドル=360円の時代で、大卒初任給2万円の時代です)無償分だけで1兆0800億円を供与し、両国間における請求権は、完全かつ最終的に解決されている、つまり、日韓併合時の、韓国の個人法人への賠償は韓国がおこない、日本は、賠償責任を負わないという規定です(第二条2項)。

 

 それぞれの思惑はあったでしょう。

 

 昭和40年6月22日ですから、日本は高度経済成長のまっただ中、前年には東京オリンピックの開催、新幹線の開通ということがありました。

 

 日本としても、韓国が経済的に強くなってもらわなければ「緩衝帯」としての役割は果たしませんし(韓国は北朝鮮と同様貧しかったのです)、日本の政治家に、利権も絡んで、親韓派はいましたし、現在もいます。

 

 韓国は、朴正煕の軍事独裁政治の時代でした。

 

 日韓基本条約の締結を行い、有償無償で、現時点の価格にして、約1.6兆円の資金で、「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長へと結びつけようという思惑はありました。

 

 韓国政府は、戦時における韓国人への賠償をしていますが、本来の範囲より狭く、金額もわずかです。
 軍事独裁政治の時代でしたから、韓国が韓国人に、まともな金銭を渡すということは想定せず、富国強兵に励んだのだと思います。

 

 韓国が、条約締結当時、軍事政権であったから無効ということはありません。
 ソビエト連合は、帝政ロシアの債務の無視をしようとしましたが、国際社会が許すはずもありません。

 

  韓国が、国民に条約を知らせていなかったということも理由になりません。
 現在でも独裁国家はありますが、条約は有効です。

 

 日本政府は、昭和40年の日韓請求権協定で、個人請求権問題は解決したとの立場ですし、最高裁判所も同じです。
  日本の条約や法令解釈は、欧米先進国共通のものです。

 

 条約は、当時日本国籍で、現在韓国国籍の人への賠償は、すべて韓国がすることが大前提となっています。

 

 日本人は韓国に請求できませんし、韓国人は日本に請求できません。日本人は日本に請求をし、韓国人は韓国に請求をします。

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