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2018年バックナンバー

雑記帳

裁判官の説諭

 刑事裁判官は「説諭」をする人が多いです。
 

 刑事訴訟規則221条には、以下の定めがあります。
 「裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる」
 
 「説諭」と一般に呼ばれていますが、法律用語としては「訓戒」です。
 
 私自身は、裁判官時代、刑事訴訟の単独事件を担当したことはありませんし、合議体の裁判長をしたことがありませんから、「説諭」の経験はありません。
 
 民事の判決言渡は、事件番号と主文を淡々と読上げ、「事実および理由の朗読は省略します」と言うだけです。
 
 そもそも、よほどの著名事件でもない限り、当事者が来ていないことがほぼ100%ですから、無駄な手数はかけません。
 
 通常の裁判長や単独裁判官は、実刑なら「刑を償ってください」、執行猶予なら「執行猶予期間中に、再度罪を犯せば、本件の懲役とあわせて服役することになりますから、十分注意してください」、あるいは「この判決でわかりにくかった点は、あとで弁護人から聞いてください」というなど(執行猶予の判決の場合、刑の期間と執行猶予期間の区別が分からなかったり、混同したりする被告人がいます。下手をすると、執行猶予で自由の身になった被告人が、看守に手錠をかけられ拘置所に帰るつもりでいることがあります)、事務的なものだった記憶があります。
 
  少なくとも、私が陪席をしていた時代の裁判長はそうでした。
  38年前ですが・・・
 
 あと、月並みなものは「無反省な犯罪者に対する怒り」くらいですかね。
 
 いろいろ「おもしろい」ものもあるようですが、私自身は聞いたことがありません。
 
 
 ある裁判長の説諭が話題になっていました。
 「重大な結論となった。裁判所としては、控訴を勧めたい」という、裁判員制度での死刑判決の説示です。
 
 判決後に、控訴「することができる」ということを述べるのは、裁判長・単独裁判官の義務です。
 刑事訴訟規則220条には「有罪の判決の宣告をする場合には、被告人に対し、上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知しなければならない」と定められています。
  裁判長や単独裁判官は、例えば「この裁判に対しては、大阪高等裁判所控訴することができます」「その場合、14日以内に、大阪高等裁判所宛の控訴状を当裁判所に提出してください」と言います。
  これは、義務です。
 
 「控訴を勧めたい」などとは言いません。
  このまま確定してしまえば、裁判員に、自分は死刑の判決に関わってしまったという、心の傷が残らないような配慮でしょう。
 職業裁判官でも、死刑判決の言渡しは嫌でしょう。
 言わなくても、弁護人が控訴します。弁護人は被告人の意思を確認することなく、弁護人の権限で控訴ができます。控訴取下げは、被告人にさせたらよいのです。
 
 
  ちなみに、私の裁判官時代の判決は、最高が無期懲役でした。殺人で15年の刑を終えて、すぐ、殺人を犯した件だったと記憶しています。
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