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司法 バックナンバー 2/3

行政書士には離婚相談はできません

NHKのドラマ「コンカツ・リカツ」について、大阪弁護士会会長が、平成21年7月までに、行政書士役の女優が離婚アドバイスをしているのは弁護士法違反であるとして、NHK同局に抗議書を送りました。

ドラマは、平成21年4月に放映されたもので、「離婚カリスマカウンセラー」と称する行政書士役の紺野美沙子が、離婚後の生活費や慰謝料などについてアドバイスしていました。
 大阪弁護士会は、このシーンについて、弁護士以外が報酬目的で法律事務をすることを禁じた弁護士法の趣旨に反すると抗議書を送付しました。NHKが弁護士法違反行為の助長するのですから、当然のことですね。
 これに対し、NHKは、今後の番組作りの参考にしたいなどとしています。

 「非弁行為」は、典型的には、交通事故の示談屋のようなもので、弁護士資格のないものが、報酬を得る目的で、法律事務を扱うことを禁止したものです。

 弁護士法72条に「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と定められ、同法77条には「違反すれば、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する」と定められています。


 「行政書士は、報酬目的で、離婚の相談ができない」ということは、いろいろな学者や弁護士さんが、さまざまな理由を述べていますので、少し違う視点から根拠を示してみたいと思います。

 行政書士は、行政書士法11条に「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と定められています。
 これは、行政書士が、行政官庁に定型的な文書の代書をするのが仕事の内容であるという前提で定められています。
 どの行政書士がやっても同じ結果となる機械的・定型的な仕事を頼むのに、「正当な事由」なしに依頼を拒絶されたのではたまったものではありません。


 弁護士法をご覧下さい。「正当な事由がなければ、拒むことができない」という規定は一切ありません。

 依頼を断るのは全く自由です。
 自分の得意分野か否か、思想信条、勝訴の見込み、ペイする事件かどうか、いろいろ勘案して、好きな事件だけを受任すればいいのです。
 依頼者側にとっても、弁護士に「嫌々」受任してもらったところで、いい結果が得られるはずもありません。
 法律相談や訴訟とはそういうものです。

 司法書士は、もともと「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼を拒むことができない」とされていたのですが、簡裁訴訟代理等関係業務ができるようになったので「簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く」という規定が入りました。
 やはり、訴訟ができる限り、誰がやっても同じ結果となる機械的・定型的な仕事ではありませんから、簡裁代理業務についてのみ「正当な事由がなければ、拒むことができない」は適用されないとの規定が入れられました。
 従前どおり、登記などの、誰がやっても同じ結果となる機械的・定型的な仕事(ただ、行政書士と違い、明らかな司法書士ごとの能力差が感じられることはありますが)について「正当な事由がなければ、拒むことができない」という規定です。

 裁判、あるいはそれを前提とする相談は、理由を説明することなく、好きな事件だけを選ぶことが、弁護士や司法書士、また、依頼者にとっても有利な結果になります。


 前にも書きましたが、行政書士は、行政書士法11条に「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と定められています。例外はありません。
 行政書士法からすると、離婚の相談が職務範囲であるとすると、行政書士に離婚相談の依頼があれば、行政書士は「正当な事由がないのに」離婚相談を拒めないことになります。
 おかしいですね。
 本来の仕事を地道にしている司法書士は、離婚の相談なんかしません。

 離婚相談が行政書士の職務の範囲なら「正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」ことになりますが、そんな弁護士法違反の危険なことを法律が受任を強制するはずもありません。

 つまり、離婚相談は行政書士の職務の範囲ではありません。

 もちろん、司法書士にとっても、職務の範囲でもありませんが、司法書士は、行政書士ほど仕事に困っていないので、そんな危険なことは最初からしないようです。

 なお、行政書士は、婚姻費用や財産分与について、公正証書を作成することをすすめるそうですが、離婚と離婚の条件について、概ね合意している場合、普通は、本人が、家庭裁判所の調停を申立てて、調停委員に意見を聞いてもらって、裁判所が妥当と思う条件で調停を成立させることが一番です。
 申立は、本人で十分できます。

 家庭裁判所の調停は、受付から職員が親切にアドバイスしてくれ、調停では調停委員が親身になって相談してくれます。無駄なお金はいりませんし(何千円の単位です)、また、調停調書には、強制執行ができるなど、公正証書と同等の効力があります。

 また、調停手続きの中で、離婚自体を「調停離婚」にせず「協議離婚」にする(金銭面は調停で、離婚自体は離婚届を作成します)ということが可能ですし、結構、利用されています。

 弁護士は、離婚と離婚の条件について、概ね合意している場合、家庭裁判所の利用のアドバイスだけをして、本人に任せます。相談料も、地方公共団体の代金のかからない法律相談ならいりませんね。

 行政書士は、自分の報酬をもらいたいですから、調停という選択肢を示さず(弁護士は、離婚と離婚の条件について、概ね合意している場合、相談者の利益を最優先して、本人申立の調停を勧めることがあります。


 あとで、調停成立なら起こりえないトラブルとなって、今度は弁護士のところにくるというパターンで、本人にとっては大きな損失、弁護士にとっても迷惑な話です。

(令和元年8月29日一部訂正)

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