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債務(借金)問題

債務・借金

過払金の時効についての最高裁判所判決

過払金返還請求訴訟において、エポック・メイキングな判決が最高裁判所によってなされました。

「平成21年1月22日・最高裁判所第一小法廷判決」 をご覧下さい。

平成20(受)468号
不当利得返還等請求事件
平成21年1月22日
最高裁判所第一小法廷
裁判要旨
「 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が、利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合には、上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、上記取引が終了した時から進行する。」

 問題の論点は以下のとおりです。
 1 まず、グレーゾーンによる過払金返還について、業者(消費者金融・信販会社)から、時効の主張をされることがありました。
 (1) 通常のサラ金の契約は、基本契約書を交わすとともに、カードを交付し、一定の枠内なら、自動引出・預入機で、自由に借りることができ、毎月の返済は、その残高に応じ、最低一定の金額を支払うという約定です。
     また、通常のクレジット会社の契約は、カードを交付し、キャッシングといって、枠内なら一定の金額まで自動引出・預入機で、自由に借りることができ、〆日から1ヶ月強後に一括して支払うという契約、キャッシュローンといって、枠内なら一定の金額まで自動引出・預入機で、自由に借りることができ、毎月の返済は、その残高に応じ、最低一定の金額を支払うという契約です。
 (2) このような基本契約は、一般に、利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むとされています。
 (3) 例えば、平成21年1月24日に訴訟が提起されたとします。
     そして、昭和60年1月1日に開始された取引が、平成3年1月1日に元金が0となったとします。
     すると、それ以降、新たに借りた金額以上の元金が返済されるごとに、過払金返還請求権(以下「元金部分」といいます)が発生します。
     また、その過払金ごとに、過払金発生から、業者が過払金を返済するまで、年5分の遅延損害金の返還請求権(以下「遅延損害金部分」といいます)が発生します。
 (4) 業者の主張は、平成21年1月24日に訴訟が提起されていれば、平成11年1月23日以前に発生した、元金部分も、遅延損害金部分も10年の消滅時効で過払金が時効消滅しているから、支払わなくていいとのものでした。これを「個別進行説」といいます。
 2 業者(消費者金融・信販会社)の主張について、下級審の判決は分かれていました。
 (1) 大多数の裁判所は、一般に業者の主張する「個別進行説」を採用せず、基本契約が同一ならば、基本契約解除の日から10年を経過している場合は仕方がないですが、10年経過していなければ、元金部分も、遅延損害金部分も時効消滅部分は全くなし、元金部分、遅延損害金部分全額の支払いを命じていました。
     幸い、私が受けた判決は、すべてそのとおりでした。和解も、すべて、その線でのみなしてきました。
 (2) しかし、一部の地方裁判所や高等裁判所は、誤った考えに立ち、「個別進行説」を採用し、元金部分も、遅延損害金部分も訴訟提起からさかのぼって10年経過した部分については、消滅時効で過払金が時効消滅しているとし、10年経過しない部分だけの、元金部分・遅延損害金部分しか認めなかったのです。
 (3) また、一部の、勉強をしていない弁護士は、業者が証拠として提出する、高等裁判所の誤った判決が正しいものとして鵜呑みにして、業者の主張する、10年経過しない部分だけの、元金部分・遅延損害金部分で和解を成立させていました。
     お気の毒としか言いようがありません。弁護士は、ちゃんと選びましょう。
 (4) 取引の長い人などは、昭和年代からの取引履歴が出た時など、50万円枠をいっぱい借りていた人など、元金部分・遅延損害金部分をあわせ、1業者500万、それ以上というケースもあります。「個別進行説」を採ると、2分の1から3分の1に減ってしまいますから、大きな差があったわけです。
 (5) 今回の最高裁判所の判決は、大多数の、地方裁判所や高等裁判所が採用している「個別適用説」排除を認めました。
 3 あと、第二小法廷、第三小法廷も、今年の春、同様の判決をする予定です。
   なぜ、わかるかというと、第二小法廷、第三小法廷とも、「個別進行説」を採った高等裁判所判決について、口頭弁論を開き、判決期日を指定しているからです。
   ごくごく一部の例外を除き、最高裁判所が口頭弁論を開いたときは、高等裁判所の判決を破棄します。つまり、「個別進行説」を採った高等裁判所判決は破棄されます。また、第一小法廷は全裁判官一致ですから、15分の5を占め、逆に、8人の裁判官の意見が反対なら、大法廷判決に回付して「けり」をつけなければなりません。おそらく、全員一致でしょう。
 最高裁長官・判事は「経済社会の現況」を考える必要は全くありませんし、法解釈では、利益団体の圧力があったり、政治的思惑に左右される、誤った結論を導きがちな国会より優先します。

 これは、多重債務に長期間苦しめられてきた消費者に大きな朗報です。
 まじめに長期間支払ってきた人は、過払金で、破産せずともよくなります。
 1社500万円の過払金があれば、他の業者の負債が残っていても、全額一括で返せます。
 それほどでなくても「支払うべき金額」-「過払金」がわずかの残となり、任意整理といって、3年ないし5年間、元金だけの支払いですむことになります。


 全文は、 「判旨」 をご覧下さい。
 なお、pdfが開けない方のために、テキストを付記します。
「         主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
         理由
上告代理人山口正徳の上告受理申立て理由について
1 本件は、被上告人が、貸金業者である上告人に対し、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると、過払金が発生していると主張して、不当利得返還請求権に基づき、その支払を求める事案である。
 上告人は、上記不当利得返還請求権の一部については、過払金の発生時から10年が経過し、消滅時効が完成していると主張して、これを援用した。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 貸主である上告人と借主である被上告人は、1個の基本契約に基づき、第1審判決別紙「法定金利計算書⑧」の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり、昭和57年8月10日から平成17年3月2日にかけて、継続的に借入れと返済を繰り返す金銭消費貸借取引を行った。
 上記の借入れは、借入金の残元金が一定額となる限度で繰り返し行われ、また、上記の返済は、借入金債務の残額の合計を基準として各回の最低返済額を設定して毎月行われるものであった。
 上記基本契約は、基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には、弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
3 このような過払金充当合意においては、新たな借入金債務の発生が見込まれる限り、過払金を同債務に充当することとし、借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という)を行使することは通常想定されていないものというべきである。
 したがって、一般に、過払金充当合意には、借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点、すなわち、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし、それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず、これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。
 そうすると、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり、過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。
 借主は、基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので、一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ、その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが、それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは、借主に対し、過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく、過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから、そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁、最高裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号479頁参照)。
 したがって、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は、過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り、同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。
4 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、本件において前記特段の事情があったことはうかがわれず、上告人と被上告人の間において継続的な金銭消費貸借取引がされていたのは昭和57年8月10日から平成17年3月2日までであったというのであるから、上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたことが明らかであり、上記消滅時効は完成していない。
 以上によれば、原審の判断は結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」

西野法律事務所
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