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債務(借金)問題

債務・借金

任意整理最近の話題

「グレーゾーン金利」「利息制限法引きなおし」「過払金返還」というフレーズが、新聞・テレビなどマスコミに登場することが多くなりました。

 これは、最近、よく取り上げられるようになっただけで、目新しいテーマではありません。
 私が裁判官をしていたころ、ですから、昭和年代のころから訴訟はありました。

 当時は、一般消費者が、消費者金融・クレジット会社を相手に訴訟をするのではなく、会社や個人事業者が、いわゆる高利貸しを相手に訴訟をしていました。
 また、「余分に支払った分を返してくれ」という不当利得返還請求訴訟ではなく、「これ以上支払うのは勘弁してくれ」という債務不存在確認訴訟が通常でした。

 私自身、簡易裁判所の事件(当時90万円まで)を担当したわけではありませんが、簡易裁判所裁判官から、債務不存在確認が多くて困るという話は聞いたことはありません。おそらく、ほとんど事件がなかったと思います。

 なお、会社や個人事業者は、高利貸から、貸し借りの経過を教えてもらわなくとも、振替伝票や手形・小切手帳の控えから、「いつ」「いくら」「借りた」、あるいは、「いつ」「いくら」「返した」ということがわかりましたから、高利貸からの情報などなくても訴訟を提起することができていたのです。もちろん、振替伝票や手形・小切手帳の控えの保存の悪い借主は、訴訟を提起すること自体難しく、事件になっていなかったのかも知れません。

 また、訴訟になって、返済のしすぎということがわかっても「債権債務がないことを相互に確認する」つまり「お互いにこれ以上請求しない」という和解で終了していたことが多かったと思います。
 過払金返還の訴訟ということになると、裁判官は判決を書かねばなりません。裁判官としては、複雑な計算を電卓でやらされるのはかないませんから、多少「強引」に和解をすすめていたように思います。

 なお、横道にそれますが、裁判官には、判決を書くにあたっての補助者はいません。
 書記官、事務官などは、判決書作成に一切関与しませんから、自分で電卓を打つしかありませんでした。
 現在は、裁判官が、電卓をたたくかわりに、コンピュータの表計算ソフトを操作するということに変わっただけですから、原告や被告の計算式どおりの判決をする場合は別ですが、裁判官が、自分の認定の数字で計算しようとすると、入力ミスが続発することになります。
 なお「判決の数字にミスがあった」とか、「当事者の指摘により、裁判所が『更正決定』により判決を訂正した」という報道がしばしばなされるところですが、裁判所の判決には、担当裁判官以外のチェックはありませんから、ミスがあるのは、ある意味当然のことです。

 話を元に戻しまして、原告代理人としても、もともと、債務不存在確認訴訟を提起していることですし、審理が進んで過払いが判明したとしても、「債務がゼロになればいい」という当初の目的は達したとして、「債権債務がないことを相互に確認する」いわゆる「ゼロ和解」で事件を終了させていました。

 私は裁判官を退官し、いわゆるイソ弁になったのですが、高利貸とは、比較的縁のない事務所にて勤務しておりましたので、平成2年から独立した平成8年までは、高利貸の事件はしていませんし、「事務所の都合」で、破産管財人の仕事もしていませんでしたので、その間の事情はよくわかりません。

 私が独立して、現在の事務所を設立したときから、破産管財人の仕事をするようになりましたし、また、消費者金融を含む高利貸相手の事件をするようになりました。

 任意整理をする場合、債権者が、利息制限法以上の利息を取っているときは、利息制限法に引きなおして、債務額を圧縮して、圧縮した金額で示談をするということは当然です。
 ただ、問題は、消費者金融やクレジット会社が、取引履歴を明らかにしようとしないことでした。
 会社や個人事業者と異なり、個人は、取引履歴(「いつ」「いくら」「借りた」あるいは「返した」のか)を示す書類を捨ててしまって、持っていないことが多いのです。

 消費者金融会社は、コンピュータで、各顧客の取引履歴(いつから借り始めたのか。いつ、いくら借り、いつ、いくら返したのか)を管理しているのですが、代理人である弁護士が受任通知を出し、取引開始からの取引明細を出してくれるよう要求しても、古い取引については隠して開示しようとしませんでしたし、弁護士としても、依頼者が何も書類を持っていなければ、最新の借換え手続日以降の取引履歴しか出しませんでした。
 なお、借換えとは、借入限度額の増額とか、利率の変更の名目、あるいは、2、3年たったからという理由により、古い契約書と新しい契約書を差替えることです。それまでの半端な数字が、30万円とか50万円とか、丸い数字になります。

 消費者金融会社としては、利息制限法を越える利息を取り続けている以上、取引履歴が古ければ古いほど残元金は減っていきますから、できるだけ直近の借換え手続日以降の取引履歴しか出さないようにするでしょうし、現にそうしていました。

 また、一定の時点からは、利息の支払いすぎのために、消費者金融会社が、請求する立場から一転して、払いすぎた利息の返還請求を受ける立場に追込まれるということから、それを回避するために、やはり、できるだけ新しい借換え手続日以降の取引履歴しか出さないようにしていました。

 それでも、いわゆる大手消費者金融は、弁護士が、古い取引があったことの証拠、たとえば、契約書、ATM機のレシート・銀行振込控え(たとえ1枚でも)などのコピーを送付すれば、契約書の場合は、その契約書以降、ATM機のレシート・銀行振込控えの場合は、直前の借換え手続日以降の取引履歴を開示してきていました。
 なお、クレジット会社は、返済が、すべて銀行引落としですから、銀行預金通帳、銀行口座取引履歴など、銀行口座を調査すればわかることですから、ある程度まともに取引履歴を開示していたようです。

 以上の事情で、古い契約書やレシートを保管している物持ちのいい債務者ほど、得をしていました。
 弁護士も、さまざまな方法で、古い取引を知ろうとしました。
 どうやって古い取引履歴を調べるのかは、各弁護士のノウハウがあったのでしょうが、私が知る限り、「これといった方法」は「企業秘密」として公表されていませんでした。
 当時は、依頼者は、依頼する弁護士の技量によって、ずいぶん損をしたり得をしたりしていました。

 さて、ここからが、本コラムの本題です。

 平成17年7月19日に、最高裁判所は画期的な判決 を下しました。
 裁判要旨は「貸金業者は、債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う」というものです。

 金融庁のガイドライン も、最高裁判所の判決に沿って改められました。

 消費者金融会社やクレジット会社が怖いのは金融庁です。
 ガイドラインに反すると、金融庁から、業務停止命令を受けるなどの処分を受け、新聞・テレビなどマスコミにさんざん報道され、たたかれて、イメージダウンになります。

 いろいろありましたね。
 違法取立、取引履歴の改ざんなどなど・・
 アイフルのクーちゃんのCMもなくなりました。

 ということで、少なくとも、いわゆる大手の消費者金融は、最高裁判所判例、金融庁ガイドラインにより、取引当初からの取引履歴を開示するようになりました。

 もっとも、それ以降も、取引履歴の開示を「出し惜しみ」をしていた、準大手の三和ファイナンスなどは、違法取立とあわせて、取引履歴不開示も理由として取引停止 を受けました。
 具体的には、「まず3年分開示」「2度目の請求に関しては、調査中のFAXを送る」、「3度目の請求に関しては、とりあえず5年分開示する。」等と定めた社内規定を策定したり、開示開始日を指示する等、本社の積極的な関与の下で法令違反行為に及んでいたようです。
 なお、上記最高裁の判例、金融庁のガイドライン改正までは、どこの消費者金融でもやっていたことでしょうが、三和ファイナンスは懲りませんでした。

 一番大きい、当初よりの取引開示はクリアされました。
 これで、基本的には、どの弁護士に頼んでも、同じような取引履歴がえられるようになりました。

 なお、消費者金融が、遅延損害金を支払わなければならないのか、支払わなければならないとすると5%か6%かという問題もあるのですが、平成19年2月13日に、最高裁判所は「商行為である貸付けに対する弁済金のうち利息制限法の制限超過利息を元本に充当することにより生ずる過払金を返還する場合に,悪意の受益者が付すべき民法704条前段の利息の利率は,民法所定の年5分である」という判決 を下しました。
 前者は当然の話であり、後者は、高等裁判所レベルで分かれていたのを統一しただけです。
 私などは、最初から5%でしていましたので、何の影響も受けていません。

 あと、消費者が、一つと思っていた債務が、同時に、二つあったということもよく見るようになりました。
 これは、既に解決済みですが、ご存じでない弁護士さんもおられるようです。
 また、平成15年7月18日に、最高裁判所は「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において、借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合、この過払金は、当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない」という判決 を下しています。

 つまり、同じ会社の複数のクレジットによるキャッシングがある場合や、同じクレジットカードで、キャッシングとリボ払いの購入がある場合にも応用できます。
 利息制限法引きなおしプログラムの構造を知っている弁護士なら、複数2つの取引を経時的に並べて統一することは難しくありません。エクセル形式の「計算表」が、「ブラックボックス」で、ただ入力しているだけという弁護士さんには難しいかも知れません。
 キャッシング29.2%、ローン18%の、利息制限法内のローンの金利をもうけることがありますし、リボ払いの利息分ももうけることがあります。
 これをしていない弁護士が多いというのは残念です。

 次に、消費者金融が問題にし出したのは、取引の連続の有無、あるいは、取引が担当か複数かです。

つまり、ある債務者が、残高があり続けるのであれば問題ないのですが、いったん完済して、2、3年、あるいは場合によっては、5、6年後から借入れを始めている債務者の場合、一連の取引と見るか、別々の取引と見るかにより、大きく違います。

 まず、本来なら一連の契約を寸断して別途の契約としておけば、つまり、一連の契約をA部分、B部分、C部分と寸断することに奏功すれば、A部分について過払いが生じても、B部分については貸付元金がA部分の過払金により貸付金に充当されて減額されないから、B部分が過払いになるまで、本来収受できない18%の利息を享受でき、また、C部分についても同様、C部分が過払いになるまで、本来収受できない18%の利息を享受できます。

 また、本来なら一連の契約を寸断して別途の契約としておけば、つまり、一連の契約をA部分、B部分と寸断することに奏功すれば、一連の契約であると判断されれば、消滅時効の起算点について、一連の契約の最後の取引から提訴まで10年経過しているか否かについての判断がなされるのに対し、別個の契約であると判断されれば、古い契約の方が10年の消滅時効にかかっていれば、古い契約の過払金の返還請求を受けることがなくなるのです。

平成19年2月13日に、最高裁判所は「貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において、第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1貸付け過払金」という)、その後、同一の貸主と借主との間に第2の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で、基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか、その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り、第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず、第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。なぜなら、そのような特段の事情のない限り、第2の貸付けの前に、借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし、第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は、不当利得としてその返還を求めたり、第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性があるのであり、当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからである」という判決 (前記の判決と同一です)を下しました。

勢いづいたのは、押されっぱなしであった消費者金融、クレジット会社でした。

 ただ、逆にいうと、「貸主と借主との間で基本契約が締結されていなる場合」においては「過払金発生後に貸付が行われた場合には、過払金は次の貸付に当然充当される」ということになり、また、「基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており、第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されている場合」においても「過払金発生後に貸付が行われた場合には、過払金は次の貸付に当然充当される」ということになります。

 具体例の蓄積が待たれるところです。

 具体的な例としては、まず、平成19年6月7日に、最高裁判所は「いわゆるカードローンの基本契約が,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解す」という判決 (前記の判決と同一です)を下しました。

遠からず、消費者金融のリボルビングについての判例も出ることになると思います。
 この点は、訴訟を提起する覚悟なら、自分の思うとおりの訴訟遂行をすればよく、最高裁判所の判決の流れからすると、消費者有利に進んでいくと思いますがいかがでしょうか。

 もっとも、示談をすると悩ましいところではあります。
 私の示談の方針は、以下のとおりです。

 まず、管理番号が異なっていれば、まず、別個の契約としてあきらめることにしています。

 次に、あいている期間ですが、高等裁判所レベルでは、2、3年経過していれば、別々の取引と解している判例もあるようです。
 しかし、貸金業法22条にも「貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権についてその全部の弁済を受けた場合において当該債権の証書を有するときは、遅滞なく、これをその弁済をした者に返還しなければならない」となっていますから、基本約定書の写しを書留で返還しているかどうかを突くようにしています。
 あとは「貸主と借主との間で基本契約が締結されていなる場合」においては「過払金発生後に貸付が行われた場合には、過払金は次の貸付に当然充当される」ということになり、また、「基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており、第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されている場合」においても「過払金発生後に貸付が行われた場合には、過払金は次の貸付に当然充当される」という方向に持っていくようにします。

西野法律事務所
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