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身近な法律問題

背理法

判決における事実認定で「背理法」という方法が用いられることがあります。

 背理法とは、ある仮定をし、続けてその前提から導き出される現実との矛盾を指摘し、最終的にある仮定が誤りであることを結論付ける証明方法です。

 例を示してみましょう。
 「2^(1/2)=ルート2が、無理数であることの証明をする。
  2が有理数であると仮定する。
  2^(1/2)=m/n
  mとnは、互いに素数(1 以外に公約数をもたない)な自然数とする。つまり、mとnは、既約分数。
  両辺を2乗すると、2=m^2 / n^2 よって、2* n^2=m^2
  よって、mは偶数( 2 乗して偶数になる自然数は偶数)。
  m =2kとおける( kは自然数)。
  代入すると、2*(n^2)=4(k^2)
  よってm は偶数。
  n も偶数でm も偶数であることは(2で約分できるので),n とm が互いに素であるという最初の仮定と矛盾する。
  したがって、2^(1/2) は無理数である。」


基本的に、民事訴訟は、原告・被告のどちらが正しいことを述べているのか、言い換えれば、どちらが嘘を述べているのか判断すればよいことになります。

 もちろん、原告の主張・供述自体に矛盾や不合理な点はなく、客観的証拠とも整合性があり矛盾しておらず、被告の主張・供述自体に矛盾があり、また、不合理であり、客観的証拠とも整合性がなく矛盾しているなどの場合は、簡単です。
 この場合、原告を勝訴させればいいということになります。

 ただ、ここまではっきりしていると、判決の結果が、原告勝訴の判決ということがわかっていることを前提とした和解が試みられるのが通常です。

 普通、両当事者に弁護士がつく通常の民事訴訟にお置いては、そんなに白黒がはっきりするものではなく、原告・被告にとって、それぞれ有利な証拠、不利な証拠があり、原告・被告の各主張にいずれも弱い点があるというのが、むしろ通常です。

 例えば、原告が、ある事実を主張・供述したとします。
その事実が、正しいと仮定すると、不合理な結論が導き出されたり、客観的な証拠と明らかに抵触する結論が導き出されるとします。
 そうすれば、原告の述べる事実について「ある仮定が、続けてその前提から導き出される現実との矛盾を指摘が指摘され、最終的にある仮定が誤りであることを結論付ける」という背理法により、原告の主張事実が認められないことになります。
 もちろん、数学的な証明のような厳密なものではありませんが、もともとの争いが、基本的には人間の言動ですから、ある程度アバウトでも問題にはなりません。
 また、絶対100%の証明が要求されているはずもなく、「証拠が優越」しているか否かが基準ですから、やはり、ある程度アバウトであることはやむを得ません。

 判決のみならず、弁護士も、よく利用します。
 一部の例外を除き、自分の主張を並べ立て、自分に有利な証拠を列挙するだけで、勝訴判決をくれというのは若干厚かましいでしょうね。
ということは、相手の主張や相手の証拠を攻撃する必要があることになります。
「相手の主張が正しい」と仮定すると、「本来、こういう書面が作成されていなければならない」「本来、こういう言動をとっていたはずである」「本来、このような結果が生じていなければならない」、しかし「こういう書面が作成されていない」「こういう言動をとっていない」「このような結果が生じていない」、よって、「相手の主張は誤りである」と記載するわけです。


 なお、平成2年を境に、従前の旧様式判決から、現在の新様式判決にかわってきています。ちなみに、私は、ちょうど平成2年に退官していますから、旧様式の判決しか書いていません。
 新様式になると、裁判所の裁量で、「争いのない部分」と「争点」を摘示し、裁判所は、自分の裁量で摘示した「争点」にのみ判断する傾向になってきています。
 いくら「相手方の主張」が「その仮定が正しいものとすると」「本来あるべき経過、帰結」と矛盾すると主張してみたところで、裁判所が、争点として摘示してくれなければアウトです。
 また、ある意味、弁護士の立場でみていると、裁判所は、謙虚に判断するということより、裁判官は、結論をまず決め、それに都合のよい「争点」をつくり、判決を書いているな、と思います。

 もちろん、弁護士としては、勝つ場合は好都合なのですが、負ける場合は、判決に書いてもらってないと、控訴理由書にも書きにくいし、依頼者にも説明しにくいです。

 弁護士としても、大したことのない事件は、論理的にやるより、「善玉・悪玉に分け、自分の依頼者が善玉、相手が悪玉」と強調したり、「有利な部分をことさら強調、都合が悪い部分は半分無視」とする方が、依頼者のためにいいのかな、昔はそんなことはなかったのになと思いながらも、つい安直に流れていってしまう傾向にあります。

 もちろん「論理と論理」の「ガチンコ」勝負もありますが、事案によりますし、また、基本的に裁判官のレベルが問題のような気がします。「善玉・悪玉2分説」の判決が、重要な事件でも多い気がします。忙しいのでしょうか?

西野法律事務所
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