2018年バックナンバー
雑記帳
旧朝鮮半島出身の労働者の損害賠償
旧朝鮮半島出身の労働者の損害賠償(「徴用工」)について、平成30年10月30日、大法院は、新日鉄に約4000万円の損害賠償の支払いを命じる判決を言渡しました。
同じ事案において、日本の最高裁判所は、旧朝鮮半島出身の労働者の損害賠償(「徴用工」)の請求を棄却しています。
政府対政府の問題ですが、日本の最高裁判所の判決と、韓国の大法院の判決のどちらが正しいかということに帰着します。
その時点で、既に勝負ありという感じがしないでもないですが・・
韓国の大法院(日本の最高裁判所)は、13人で構成されているようです。
また、大法院については、法廷意見の他に、個々の裁判官の補足意見、意見、反対意見が記載されるようになっているようです。
ちなみに日本の最高裁判所は、法廷意見の他に「個々の裁判官の補足意見」「意見」「反対意見」が記載されます。
「補足意見」は、法廷意見について異存はないが、その理由や論理について、補足しておきたいとの意見です。
「意見」は、判決文がとった理由・論理と異なる理由・論理をとりながらも、結論は判決と同じものです。
「反対意見」は、当然、法廷意見に対し反対の意見です。
金大法院長を含む法廷意見(13人中7人の裁判官)は以下のとおりです。
「 元徴用工らが求めているのは、未支給賃金や補償金ではなく、日本の不法な植民地支配や侵略と直結した日本企業の反人道的な強制動員に対する慰謝料である。
請求権協定の過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員の法的賠償も否認している。
そして、日韓請求権協定は、植民地支配の不法性にまったく言及していない。
したがって不法な強制動員に対する慰謝料請求権は、「完全かつ最終的に解決」したとされる請求権協定には含まれていない。だから、日本企業は元徴用工に慰謝料を支払うべきである。」
3人の裁判官は「原告の損害賠償訴訟請求権は請求権の対象に含まれると見るべき」としながらも「個人の請求権は請求権協定だけで当然消滅すると見ることはできない」と判断しました。
他に1名の裁判官の意見もあれます。慰謝料請求を認めるという点では、結論は同様です。
2人の裁判官は「請求権協定が憲法や国際法に違反して無効と見なさない場合、その内容が不服であっても守らなければならない」「国家間協定の韓日請求権協定に基づいて原告、すなわち個人の請求権も権利の行使が制限される」と反対意見を述べています。
韓国というお国柄、2人の反対意見を述べた裁判官の将来が不安になる感じはしますが・・。
なお、日本と韓国は、日韓請求権協定の解釈及び実施に関する紛争について争いがあるのですから、日韓請求権協定に従って、まず、外交で解決することになります。
日本政府は韓国に対し、日韓請求権協定に従い「韓国政府が責任を持って補償すべき」と、韓国政府が対応すべきであるとして、外交で解決しようとしているのですが、韓国政府は何も行動せずにいるままです。
日韓請求権協定には、外交で解決しない場合は、仲裁委員会の決定に服するとなっていて、日本は仲裁委員会の設置準備にはいっています。
仲裁委員会は、日本と韓国1人ずつ、あと1人第三国の委員が加わって3人の仲裁委員で構成されます。
日本と韓国の委員で第三国の委員が選任できないときには、政府が協議により決定する第三国の政府に第三国の仲裁委員を委ねるとなっています。
なお、日本と韓国は、仲裁委員会の決定に服するとされています。
韓国は、仲裁委員会の設置にも反対するでしょうね。
となると、日本は、国際司法裁判所(ICJ)に提訴して、判断を仰ぐことになりますが、韓国の応訴がないと、国際司法裁判所は判断を下せません。
なぜ、韓国は、仲裁委員会の設置や、国際司法裁判所(ICJ)の裁判に服することを拒否するのでしょうか。
単純に、勝ち目がないからでしょう。
国際法と国際司法裁判所について説明いたします。
日本は、欧米の砲艦外交の結果、江戸末期に締結された不平等条約の締結を余儀なくされました。欧米の領事裁判権や関税の自主権がないという条約です。
日本は、大臣の報酬をこえる、いわゆる「お雇い外国人」と呼ばれる外国人を雇用し、法律制度の分野で雇用され、法律をつくり、近代国家建設を助けました。
日本は成文法である大陸法を中心に継受することになりました。
具体的には、プロイセン(後のドイツ)の憲法を参考に憲法を定め、プロイセンとやフランスなどの民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法などの法律を参考に各法律を定めました。
日本には、こんなに立派な法律があり、法律に基づいて裁判がなされているのだから、領事裁判権などは廃止した条約に改めましょうということですね。
不平等条約が改正されたのは、日本が日清日露の各戦争に勝利したというのは、理由の1つにすぎず、日本は、近代的な憲法や法律を制定し、法の支配よる近代法治国家となり、それを欧米列強が認めたということです。
みなさんは、大津事件をご存じでしょうか。
明治24年(1991年)5月11日、日本を訪問中のロシア帝国皇太子・ニコライ(後のニコライ2世)が、大津市で警備にあたっていた警察官・津田三蔵に突然斬りつけられ負傷した暗殺未遂事件です。
日本政府は、時の日本は、何とか欧米の植民地にならずに済んでいたものの、まだロシアに軍事的に対抗する力を持っていなかったため、賠償金や領土の割譲まで要求してくるのではないかと危惧されました。
日本政府は、裁判所に対し、旧刑法116条に規定する天皇や皇族に対して危害を与えたものに適用すべき大逆罪によって死刑を類推適用するよう働きかけました。
日本の皇族に対する謀殺未遂(殺人未遂)の法定刑には死刑がありましたが、外国の皇族に対する殺人未遂の法定刑は無期徒刑(無期懲役)しかなく、津田三蔵を死刑にできなかったからです。
大審院院長(現在の最高裁判所長官)の児島惟謙は「法治国家として法は遵守されなければならない」とする立場から、「刑法に外国皇族に関する規定はない」として政府の圧力に反発しました。
結局、津田三蔵は、大審院に移送の上、大審院にて、事件から16日後の明治24年5月27日に無期徒刑(無期懲役)の判決が言渡されて確定しました。
なお、結果的には、ロシアによる賠償要求も武力報復も行われませんでした。
この事件判決で司法の独立を達成したことにより、大日本帝国憲法の三権分立が諸外国に認識されました。
日英平等を定めた日英通商航海条約が締結されたのは、明治27年7月16日、日清戦争勃発(明治27年8月1日)以前のことでした(但し、当時は、完全な平等条約ではありませんでした)。
日清戦争で日本が勝利したから、イギリスとの不平等条約が改正されたというわけではありません。
日本は、明治27年から翌明治28年にかけて同内容の条約をアメリカ、フランス、ドイツ、ロシア、オランダ、イタリアなど14カ国と調印しました。これにより、日本は法権のうえでは欧米列国と対等の関係に入りました。
日本人が法を遵守すること、司法権が独立していたことは、遅くとも明治27年ころには確立していたことになります。
なお、第二次世界大戦後、国連に国際司法裁判所が設置されました。
国連の総会や常任理事会などから独立し、国際紛争について判決がなされます。
裁判長を含め、15人の判事により構成されます。
判事の任期は9年、再任することができます。
慣行でアジアから3人、アフリカから3人、中南米から2人、東欧から2人、北米・西欧・その他から5人が選ばれています。また、この15人の中には国連安保理常任理事国5か国の判事が1人ずつ含まれることになっています。
日本人の判事をみてみましょう。
日本の国連加盟は昭和31年(1956年)12月18日のことですが、その前の昭和から加入していました。
田中耕太郎(1961年-1970年)
小田滋(1976年-2003年)
小和田恆(2003年-2018年。2009年から2012年所長。2018年・中途退官)
岩沢雄司(2018年-2021年。小和田恆判事辞任にともなう補欠選任)
もちろん、国連安保理常任理事国5か国以外に、これだけ判事を輩出している国はいません。
いかに、日本人の法律家・外交官が、信頼されているかがわかります。
もちろん、韓国は、国際司法裁判所に判事を出したことは一度もありません。
理由は推して知るべしでしょう。
韓国が、IJCに応訴する見込みがない理由について考えてみます。
もとより、日韓請求権協定により、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることが確認するとされていることから、韓国の大法院の判決は「無理筋」です。
さらに、韓国大法院長を含む法廷意見の判決理由も問題です。
「 元徴用工らが求めているのは、未支給賃金や補償金ではなく、日本の不法な植民地支配や侵略と直結した日本企業の反人道的な強制動員に対する慰謝料である。
請求権協定の過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員の法的賠償も否認している。
そして、日韓請求権協定は、植民地支配の不法性にまったく言及していない。
したがって不法な強制動員に対する慰謝料請求権は、「完全かつ最終的に解決」したとされる請求権協定には含まれていない。だから、日本企業は元徴用工に慰謝料を支払うべきである。」
現在の国際法秩序は、欧米列強と日本、日本を含む先進国によりつくられたといって過言ではありません。
植民地支配をした国があっても、植民地支配をされた国はありません。
韓国大法院の「植民地支配が不法であるから、植民地支配をされた国の国民には、植民地支配をした国の企業には慰謝料請求権がある」という理屈が正しいとしてしまうと、慰謝料請求をされる国ばかりで形成された、現在の国際法秩序が根本から覆ってしまいます。
端的にいえば、韓国大法院の理屈が正しいとすると、欧米先進国と日本は、いつ何時、損害賠償請求を受けるかも知れませんから、国際司法裁判所での訴訟になると、日本が勝訴するのに決まっています。