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2018年バックナンバー

雑記帳

請求権があっても裁判認容判決がもらえない金銭債権

 「請求権があっても裁判しても認容判決がもらえない金銭債権」があるというのをご存じでしょうか。

 
 例えば、個人が自己破産するとします。
 
 免責決定が確定すれば、債権者は、訴訟を提起しても勝訴判決はもらえません。
 
 そのために、多重債務をかかえて返済できない人は、自己破産をします。
 
 この場合、債権者は、破産して免責を受けた人に対して、訴訟を提起しても、請求は棄却されます。
 
 
 請求が棄却される理由として、「債務消滅説」と「自然債務説」があります。
 
  「債務消滅説」は、文字どおり、免責決定が確定すると、債権者の債権が消滅するとする説で、「自然債務説」は、免責決定が確定すると、請求権自体は残存するが、裁判所による保護が受けられなくなる債権になってしまうという説です。
 
 一見、どちらでも同じように思えます。
 しかし違います。
 
 例えば、配偶者の親から200万円借りていて、自己破産をして免責されるとします。
 
 配偶者の親は、請求訴訟を提起しても敗訴します。
 
 ただ、破産者が、破産して免責確定後に裕福になり、配偶者の親から借りた200万円を一括返済するとします。
 
 「債務消滅説」をとると、債務自体がなくなっているのですから、200万円は贈与になってしまいます。
 90万円(200万円-110万円の基礎控除)に贈与税がかかってしまいます。
 
  「自然債務説」をとると、債務自体は残っていいるのですから、200万円の返済は有効な返済で、贈与税はかかりません。
 
 裁判所は、免責された債権について「債務消滅説」を採用せず、「自然債務説」を採用しています。
 
 免責決定が確定すると、請求権自体は残存しますが、裁判所による保護が受けられなくなる債権になってしまうだけで、債権が消滅するわけではないのです。
 つまり、裁判上訴求する権能を失ったにすぎません。
 
 ただ、余りにややこしいので、一般の人には「負債はなくなった」「借金はチャラになった」と消滅説に従った説明をしますし、「お金ができたら、配偶者の親の分だけは返済したい」と言われた場合、債務は残っていますから、任意に返済することには何の問題もありません、その場合、他の債権者を無視しても問題ありませんと説明します。
 
 請求権があっても裁判において認容判決がもらえない金銭債権は、珍しいものでないことは、おわかりになりましたでしょう。
 
 請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまる、とも言われます。
 
 平成30年10月30日、韓国の大法院で、旧朝鮮半島出身の労働者の慰謝料請求を認容する判決がなされました。
 
 日韓請求権協定2条には、以下のとおり定められています。
 
1項「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」
 
3項「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする」
 
 3項により、日本・日本国民・日本法人は、韓国に残した財産について、物件・債権は消滅しないとしても、韓国・韓国国民・韓国法人に対し、日本の裁判所に訴えても、韓国の裁判所に訴えても、保護はなされませんから、請求棄却となります。
 
 もちろん、日本・日本国民・日本法人は、韓国・韓国国民・韓国法人から任意の弁済を受けることは可能です。
 
 1項により、韓国・韓国国民・韓国法人は、いかなる請求権についても、債権は消滅しないとしても、日本・日本国民・日本法人に対し、日本の裁判所に訴えても、韓国の裁判所に訴えても、保護はなされませんから、請求棄却となります。
 
 もちろん、韓国・韓国国民・韓国法人は、日本・日本国民・日本法人から任意の弁済を受けることは可能です。
 請求権は消滅したのではなく、裁判上の権利喪失にとどまるのですから。
 
 旧朝鮮半島出身の労働者の損害賠償請求については、請求権は残っているが、条約締結国である日本と韓国の裁判所において、保護を受けられないということになります。
 
 「債権は残っているが」「裁判所で請求が棄却される」というのは矛盾でも何でもありません。裁判上の権利喪失=裁判上訴求する権能を失ったにとどまるからです。
 
 日本共産党や日本の一部の弁護士は、「債権は残っているが」「裁判所で請求が棄却される」という債権であることを否定する主張をしていますが、免責された破産債権と同じく、法的保護を受けられない債権(裁判上の権利喪失した債権)であるということを、わざと無視しているという意味で、相当ではありません。
 
 「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と矛盾しますよね。

  韓国の大法院の法廷意見は以下のとおりです。
 
「 元徴用工らが求めているのは、未支給賃金や補償金ではなく、日本の不法な植民地支配や侵略と直結した日本企業の反人道的な強制動員に対する慰謝料である。
 請求権協定の過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員の法的賠償も否認している。
 そして、日韓請求権協定は、植民地支配の不法性にまったく言及していない。
 したがって不法な強制動員に対する慰謝料請求権は、「完全かつ最終的に解決」したとされる請求権協定には含まれていない。だから、日本企業は元徴用工に慰謝料を支払うべきである。」
 
 「植民地支配をしたことについての慰謝料」を認めたことが問題で、こんなことをすれば、インド国民からイギリスに、ベトナム国民からフランスに、インドネシア国民からオランダに、ナミビア国民からドイツに、フィリピン国民からアメリカに、中国国民からイギリス・フランス・ドイツ・ロシアに慰謝料請求ができてしまいます。
 
 現在の国際法は、列強国・先進国により、つくられて運用されている法律です。
 国際司法裁判所(ICJ)の判事が韓国の主張を認めることは、ないかと思います。
 
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